解説コメント|市橋達也被告事件と裁判員裁判の評議の仕組み

【ニュース】
千葉地裁で4日から開かれている無職市橋達也被告(32)=殺人や強姦(ごうかん)致死などの罪で起訴=の裁判員裁判は、8日の第4回公判で、被害者リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22)の父ビルさん(58)が検察側証人として出廷した。ビルさんは通訳を介して「日本で許される最高刑を望みます」と述べた。
asahi.comニュース社会裁判記事2011年7月8日21時26)

今回の市橋被告の刑事裁判は、裁判員裁判となっています。
裁判員裁判とは、どういう仕組みなのか、刑の重さはどうやって決まるのか。
今日は、裁判員裁判に関する、素朴な疑問にお答えします。

■ Q1. 市橋被告の裁判は、裁判員裁判で行われているそうですが、裁判員裁判の仕組みがよくわかりません。裁判員裁判は何人で行われるんですか?

A. 裁判員裁判は、司法制度改革の一環として、裁判・司法に対する国民の理解を深め、信頼を向上させるため、健全な市民感覚を裁判に取り入れるという国民参加の制度です。
一方、憲法では、裁判官による裁判を受ける権利が保障されているので、必ず、裁判官も裁判に加わらなければなりません。
そこで、裁判員裁判は、原則として裁判員6名と裁判官3名で審理することになっています。
もっとも、裁判になっている事件について、事実に争いがないような場合は裁判員4名と裁判官1名で行うことも可能です。


■ Q2. 裁判員は、どのように裁判にかかわるんですか?
裁判員裁判の審理は原則多数決で決まると聞いていますが、裁判官3人と裁判員6人で意見が分かれた場合、裁判員の意見が通るんですか?
・例えば、今回、市橋被告の事件では、市橋被告がリンゼイさんを意図的に殺害したのかどうか、という点も争いがあると聞いています。 検察側が主張する「殺人罪と強姦致死罪」が認められるのは、裁判官と裁判員のうち、何人が賛成した場合ですか?
・逆に、弁護側が主張する「傷害致死罪と強姦罪」が認められるのは、どういう場合ですか?

A. 裁判員裁判の評議は、裁判官及び裁判員の双方の意見を含む過半数の意見で決します。
例えば、裁判官3人と裁判員6人で、殺意があったかどうかに関して、裁判員5人が殺意あり、裁判員1人と裁判官3名が殺意なしと意見が分かれた場合はどうなるでしょう。
この場合、殺意ありと判断した人数は5人で過半数に達していますが、この意見には裁判官が加わっていないので、全体の意見とすることはできません。
殺意があったことは、検察官が証拠によって証明するという原則があるので、殺意の立証が不十分だということになり、殺意を認定できないことになります。この場合には傷害致死罪が認定されます。
強姦致死罪が認められるかどうかについては、強姦の際にリンゼイさんが死亡したといえるか否かが問題となっています。死亡が強姦とは無関係の時点だということになれば強姦罪が認められるに過ぎないことになります。


■ Q3. 裁判員裁判では、刑の重さも裁判員が決めることができるそうですが、どうやって決まるんですか?
・市橋被告の裁判で、?死刑が妥当と考える人、?無期懲役が妥当と考える人、?懲役18年など有期懲役が妥当と考える人、に意見が分かれた場合、判決で、?死刑、?無期懲役、?有期懲役とされるのは、それぞれどういう場合でしょうか?

A. 裁判員裁判では、裁判官と裁判員の双方の意見を含む全体人数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次被告人に利益な意見の数に加え、その中で最も被告人に利益な意見によることになっています。
例えば、裁判員3人が死刑、裁判員2名が無期懲役、裁判官2名が懲役20年、裁判官1名が懲役18年という意見に分かれた場合を考えてみましょう。
被告人に最も不利な意見である死刑の意見を、次に不利な意見である無期懲役の意見に加えると、合計5人で過半数になります。
しかし、これには裁判官の意見が含まれていないので、全体人数の過半数の意見と認めることはできません。
そこで、懲役20年の意見を加えて、初めて裁判官と裁判員の双方の意見を含むことになるので、結論としては懲役20年が全体の意見になります。

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