誤認逮捕:万引き容疑で女性を 警視庁、裏付け捜査不十分 アトム東京法律事務所

毎日新聞 2010年2月24日 東京朝刊

警視庁は23日、東京都足立区のスーパーで万引きしたとして都内の40代女性を窃盗容疑で誤認逮捕していたと発表した。女性は逃亡の恐れがないなどの理由で逮捕翌日に釈放されたが、西新井署が裏付け捜査したところ、足立区の女(39)が容疑者と分かったという。

 誤認逮捕された女性は09年12月20日夜、足立区のスーパーでコードレスアイロンなど15点(約3万2000円相当)を手提げ袋に入れたまま店外に出たとして、今年1月26日逮捕された。

 警視庁によると、万引きした女はスーパーの駐輪場で自転車に乗ろうとして警備員に声を掛けられ、盗品と自転車を現場に残し逃走。西新井署は、警備員が女性を「よく店に来る客」と話したことや防犯カメラ映像が女性と似ていたことなどから、逮捕した。

 ところが、女性が一貫して容疑を否認したため、自転車の防犯登録を基に所有者の女を捜査した結果、顔つきや体形が女性と似ていることが判明。女が容疑を認めたため、23日に逮捕したという。

 警視庁刑事総務課は自転車の所有者への捜査が不十分だったことが原因とし、「誤って逮捕し拘束された方に、心からおわび申し上げる」とのコメントを出した。

(引用元:http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100224ddm041040171000c.html)



 万引きは窃盗罪に該当し、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

 逮捕するには容疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、逮捕の必要性がなければなりません。逮捕の必要性とは逃亡するおそれがあることや罪証を隠滅するおそれがあることを言います。

 また、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由とは客観的、合理的な根拠がなければなりません。

 本件ではコードレスアイロンなど15点を手提げ袋に入れて清算することなく店外に出たことを目撃した警備員の目撃供述により盗難被害の事実は明らかですし、警備員の「犯人の女性はよく店に来る客」として容疑者を写真などで特定する供述をもって、犯人と容疑者との結びつきの合理的な根拠としていました。

 以上より、本件逮捕は、誤認逮捕でしたが、違法ではありません。

 警備員の目撃供述は、まさに犯人を見ているわけですので、直接証拠ですが、目撃供述は、知覚し、それを記憶し、思い起こして表現してはじめて第三者に伝わるものですが、見間違い、記憶違いや言い間違いということは誰もが経験することですし、その過程には誤りが混入しやすいものです。

 そのような供述証拠の危険性から、犯人と容疑者を結び付ける証拠としては、供述証拠だけでなく、客観証拠の収集が不可欠とされています。

 本件では現場に遺留された自転車の防犯登録のほか、万引きした商品を入れた「手提げ袋」や防犯カメラ映像に映し出された犯人の画像の拡大、その服装を捜索押収するなど客観証拠の収集が十分に可能だったと思われます。

 誤認逮捕された容疑者の方は、一貫して無実を主張したことにより、警察官に自転車の防犯登録の捜査をさせて自己の身の潔白を証明しました。

 容疑者1人の力では限度がありますので、釈放されずに身柄拘束が続いたようなときには弁護士の存在は大きいのです。