<アパート放火>「自白の信用性に疑念」と大阪地裁無罪判決 アトム東京法律事務所
2月16日12時3分配信 毎日新聞
大阪市西成区で07年5月、木造アパートが全焼し、住人ら3人が死亡した火事で、現住建造物等放火罪に問われた無職、尾池治被告(61)に対し、大阪地裁は16日、無罪(求刑・懲役18年)を言い渡した。中川博之裁判長は「自白の信用性には疑念がある。被告を放火犯人と認めるには、合理的な疑いが残る」と述べた。
尾池被告は07年5月5日夜、当時住んでいた2階建てアパート廊下の下駄箱に置かれた新聞に放火し、延べ約180平方メートルを全焼させ、隣接する共同住宅2階を焼いた、として起訴された。この火災で、アパートの住人ら3人が死亡した。
捜査段階で、尾池被告は放火を認める供述をしたが、公判では、起訴内容を否認。中川裁判長は自白について「取り調べ官の意向に沿う形で記憶に基づかない内容虚偽の供述をした疑いがぬぐい去れない」と指摘した。
(引用元: http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100216-00000037-mai-soci)
現住建造物等放火は死刑、無期懲役または5年以上の懲役に処せられます。
この裁判では犯人と犯行を結び付ける証明がなかったので、無罪となりました。
刑事裁判では疑わしきは被告人の利益にという法格言があるように、証明責任、つまり、犯罪の証明はすべて検察官が負担することになっています。
木造アパートの全焼火事では犯人と犯行を結び付ける客観的な証拠というのは燃えてしまっているので、ほとんどないのが普通ですし、今回のケースも客観証拠がなかったのでしょう。
残る証拠としては被告人自身の供述調書の信用性があるかないかということが争点になり、被告人は、捜査段階と公判段階とで供述が変わっており、裁判官の前で述べた「放火はしていない」という供述と捜査段階で述べた「火をつけた」との供述のいずれが信用できるかということに帰着します。
裁判長は「取調官の意向に沿う形で供述した」旨指摘し、捜査段階の供述を被告人の記憶に基づかないうその可能性があると判断しました。
酒に酔っていたり、精神疾患などで火災発生時の情況を覚えていないにもかかわらず、たまたま近くにいて他に誰もいなかった(見つからなかった)という理由だけで火をつけた可能性があるとして逮捕される可能性があります。
本人としてみれば覚えていないだけなのですが、捜査熱心な取調官から追及されることにより、もしかしたら火をつけたかも知れないという思いになることもありうることなのです。
本当に犯人であれば当然わかっているはずの事実を話しておらず、内容が不自然、不合理で客観的な状況と齟齬するような話であれば信用することはできません。
とかく国家権力が人員を配置し、経費を使って捜査を遂げた事項については、信用あるものと思われがちです。
同一人が過去の同一事実について、異なる説明をするときはいずれかがうそであり、うそを言わざるを得ない状況があるのです。
その状況を見極める前提として、弁護士が被疑者や被告人の言葉に耳を傾け、その素直な記憶をたどることが冤罪を回避するための第一歩と言えるでしょう。
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